優しい空気に
ふんわり包まれた料理は
気持ちも、時間までも
優しくしてしまう。

洋食&ワイン むらい
Grand Chef  邨井 清隆氏(50才)

TV、ラジオでもすっかりお馴染みの邨井シェフ。普通のデミグラソースよりも黒々とした艶と優しいけれど豊潤な大地を感じさせる味が印象的な「洋食&ワインむらい」。現在8店舗を展開し、名古屋・栄に1号店がオープンして今年で10年目を迎える。邨井シェフのようになりたいと思っている料理人も少なくないはず。邨井シェフの作り方ならぬ、どうやったら邨井シェフのように人の心に残る料理を作ることができるのか。そのルーツを探ってみたい。

夢とは、あきらめなくてもいいものなのだ


こだわりのデミグラソースがたっぷりからまったご飯と邨井シェフの愛情がふんわり、卵で包まれたオムライス。人の心まで優しく包んでしまいそう

こだわりのデミグラソースがたっぷりからまったご飯と邨井シェフの愛情がふんわり、卵で包まれたオムライス。人の心まで優しく包んでしまいそう

一週間づつ味が変化していくというデミグラソースは出来上がるまでに1ケ月を要する。極上の一皿は邨井シェフの生き方そのもの

一週間づつ味が変化していくというデミグラソースは出来上がるまでに1ケ月を要する。極上の一皿は邨井シェフの生き方そのもの

邨井シェフの生き方を聞くと「夢はあきらめなくていいんだよ」と言いながら肩をポンとたたかれた思いがした。

テレビ、ラジオでもひっぱりだこの邨井シェフ。毎週木曜日、シズル感たっぷりに、簡単レシピがオンエアされるラジオのパーソナリティーも務める。台本なしの軽妙なトークからは、苦労や挫折を微塵も感じさせない。才能とチャンスに恵まれ、いつも日の当たる場所を歩んできたかのように見える。太陽ではなく、陽だまりの明るさの中で笑顔が似合う。料理はもちろんのこと、邨井シェフの個性や人柄に引き寄せられ足繁く通ってしまうお客様や芸能人のファンが多いのもうなずける。

「実は料理人を目指してから、料理を作らせてもらえるようになるには5年位かかっているんですよ」

意外にも邨井シェフはスロースターターだったのだ。

料理人になろうと思ったのは高校生の時。当時、料理人からは縁遠い工業高校に邨井シェフは通っていた。

「家は農家で親戚にも料理人はいなかったですね。ただ、みんな商売人だったり、手に職を持っていたので自然と自分も何か手に職をつけたいとは思っていました。そんな時、たまたまアルバイトをしたお寿司屋さんで料理のおもしろさを知りました。そこからコック帽への淡い憧れへと、果てしなく夢は広がっていきました(笑)」。

しかし、工業高校ゆえにホテルの料理人の推薦枠はなく、夢への道はあっけなく閉ざされた。そこで、チャンスを待つために飲食店でアルバイトをしながら授業料が一番安かった調理師専門学校の夜間に通うことにした。その時、ホテルのテーブルマナー研修で国際ホテルに深く感銘を受けた邨井シェフは、そこで料理人として働くことに強くこだわった。

チャンスが巡ってくるまでに2年かかったが、そこから3年間は椅子運びと洗い場の仕事に明け暮れた。

「毎日心が折れそうでした」と邨井シェフはその頃を振り返る。料理がしたくてもできないという、はがゆさは料理への情熱をいっそうかきたてるトリガーになっていったのかもしれない。

「専門学校の時、ハンバーグで部門賞を取ったこともきっかけだったが、自分は洋食を極めるんだと心に決めていました。エリートコースでない自分は、人と同じことをしていてはここでは生き残れない。いかに自分をアピールして先輩に目を留めてもらい、ひとつ上の仕事をさせてもらうかをいつも考えていました」

自分をアピールするということは、一つのことを地道に繰り返し積重ねることで自分の強みを際立たせるということ。

「何度も何度も同じことを繰り返し練習し、深く考え、先輩に聞きに行く。そして技術を盗むんです。来る日も来る日もね」

邨井シェフの口から何度も衝いて出てきたのが「一つのことを積重ねていくことが大事」だということ。ここには才能があるとか運がいいとかという抽象的なことは一切介在しない。

「若い人に苦労をしなさいということは言いません。ただ、少しかじっては違うことをして、転々と漂流するのはしないほうがいい。何も残らないですから」


洋食という日本の文化を残す名店として、
使命を貫き通す


木のぬくもりを感じさせる店内。料理人の心意気ときれいなキッチンに自信を感じるオープンキッチも邨井シェフのこだわりのあらわれ
<画像提供/BUAISO 撮影:亀田睦>

木のぬくもりを感じさせる店内。料理人の心意気ときれいなキッチンに自信を感じるオープンキッチも邨井シェフのこだわりのあらわれ
<画像提供/BUAISO 撮影:亀田睦>

ピータースペシャルメニュー。あのピーターも絶賛。一度は食べて見たいとオーダーするお客様が絶えないメニューのひとつ

ピータースペシャルメニュー。あのピーターも絶賛。一度は食べて見たいとオーダーするお客様が絶えないメニューのひとつ

通常、ホテルのシェフとしてトップに昇りつめるのに12年位かかると言われているが、邨井シェフは7年で昇りつめていった。そんな実力を聞きつけてか、あらゆる店舗の料理の企画・指導を頼まれるようになる。ちょうど80年代、名古屋で人気が沸きあがっていた店のほとんどの料理を邨井シェフは手がけている。

「私の基本はホテル仕込みの洋食です。それをベースにエスニックあり、中華、和・・・ありとさまざまな店に関わることは、私の基本ベースに個性という彩りを添えることになりました」

そして、1999年。

一つのことを極め奥行きと幅を拡げ満を持して名古屋・栄に「洋食&ワイン むらい」の一号店をオープンさせた。

「洋食は日本独自の料理なんですよ。フランス料理が日本に入ってくるよりも前の、明治時代に日本人が独自に開発し脈々と伝えてきたという歴史と文化があるんです。例えばオムライスのように卵をくるむという料理は韓国と中国にはありますが、ご飯をくるむオムライスはどこにもありません。知ってました?洋食という文化を消さないように感動を代々リレーしていける店として「むらい」を広め、NO.1であり続けたいんです」、と邨井シェフは思いを語ってくれた。

赤味噌を食べる名古屋人をイメージし何度もこしながら作り上げるデミグラソースは、一度食べたら忘れられない。ほろ苦いおいしさだけでなく、ほろ苦い青春の味と同じように時折懐かしい記憶も一緒につれて来てくれる。

「子供の時に食べた『むらい』の料理が忘れられなくて、今日食べにきました・・・と20歳になった男の子がお店に来てくれた時は、すごくうれしかったですね」

料理人をやっていてよかったと思う瞬間だという。

邨井シェフの名刺には、

おいしい料理は人を笑顔にし愛情のこもった料理は人を幸せにする。そして落ち着いた照明に人はほろ酔い浮足立った「ごちそうさま」の言葉を残していく。楽しい時間は人をつないでいく。「じゃあ、またね・・・」って、また会いたくなるように・・・。

というメッセージが記されていた。

アルバイトのスタッフが花束をプレゼントしてくれた時、このメッセージが添えられていた。

「じゃぁ、またね・・・」でずっと繋がっていくように、世の中がどんなに変わろうとも「洋食&ワイン むらい」は代々、受け継がれ、いつしか老舗として結実していくに違いない。


邨井 清隆氏(50才)
Grand Chef
PROFILE

邨井 清隆氏(50才)
Grand Chef

高校時代に料理人を志す。ホテル仕込みのソースの原点である国際ホテル、ワシントンホテルに勤務。その後、各レストランの料理指導に携わる。1999年、名古屋・栄に「洋食&ワインむらい」をオープン。最近はすっかり遠のいてしまったというがサーフィンもなかなかの腕前だとか。1958年生まれ、愛知県出身
<邨井シェフ写真:画像提供/BUAISO 撮影:亀田睦>


PROFILE
■洋食&ワイン むらい
愛知県名古屋市中区栄3-23-11 モリシマビル B1F
電話/052-263-1444
営業時間/[平日]11:30~14:00/17:00~23:00 [日祝]11:30~14:30/17:00~22:00
定休日/月曜日
■CHEZ MURAI
愛知県名古屋市中区錦3-4-26 K2ビル 2F
電話/052-950-7400
営業時間/[平日]11:00~14:00/18:00~24:00
定休日/日祝
■キッチンむらい 一宮店
愛知県一宮市末広2-27-7
電話/0586-43-0066
営業時間/11:30~15:00(LO14:30)/17:30~22:00(LO21:30)
定休日/月曜日
■キッチンむらい ラスパ御嵩店
岐阜県可児郡御嵩町上恵土字西畑1052-1 ラスパ御嵩 1F
電話/0574-66-7744
営業時間/10:00~22:00
定休日/無休
■キッチンむらい 滝の水店
愛知県名古屋市緑区上旭1-612
電話/052-602-9879
営業時間/11:00~22:30(LO22:00)
定休日/月曜日
■鉄板むらい
東京都渋谷区円山町5-4 フィールA渋谷1F
電話/03-6416-1888
営業時間/11:30~15:00(LO14:00)/18:00~24:00(LO22:00)
定休日/日曜日
■キッチンむらい 稲沢店(リーフウォーク稲沢内)
愛知県稲沢市稲沢中島都市計画事業尾張西部都市拠点地区土地区画整理事業13街区2-2、3画地
電話/0586-22-6744
営業時間/11:00~22:30
定休日/無休

2009年7月掲載


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