大津通りから小路に入ると、静かな街に溶け込むように佇んでいる「ベリトッサ栄店」。もう随分と昔からそこに店があったかのように。そして、彗星のごとく私たちの目の前に現われたような「ベリトッサ伏見店」。飽きさせることを知らない。いつも新しいイタリアを届けてくれる。その源泉はいったいどこにあるのだろうか。
優しく五感に語りかけてくれるようなアンティパスト。一つひとつ選び抜かれた素材の重なり合うおいしさに、癒されずにはいられない
スペイン、サン・ダニエル産プロシュートとスペイン、イベリコバレタの生ハム。ともに熟成期間は2年程。味くらべの旅に出かけてみませんか
「ベリトッサには、いろいろなイタリアがある」
お店紹介の自社サイトに、そんな一文が記されていた。
塩とニンニクを直球できかせた、いかにも骨太なイタリア男を思いださせる料理というより、優しいヨーロッパの絵画の印象を残す。イタリアンなのに、ともするとパリをほのかに感じさせるのは気のせいなのか(後々、オーナーシェフである佐藤氏の話を聞いていくうちに気のせいなんかじゃないと確信を持つ)・・・。単純には解析できない。ベリトッサは、まだ私たちの知らないイタリアがあるのだという思いを掻き立ててくれる。
佐藤氏とイタリアンはいったい、どんな馴れ初めだったのだろうか。
「普通のサラリーマンの家庭で育ちましたが、レストランを経営している親戚がいたので子供の頃からフランス料理やマナーは比較的身近だったかもしれません。すごくシンプルなものだったと思いますが、今思えば料理を作るのも好きな子供でした。調理の専門学校に進んだのも自分の好きなことは何だろうと考えて選択したくらいで、それ以上に特別な思いはなかったですね」
何事にも縛られない風が吹いているように佐藤氏の歩みはいつもいたってナチュラル。その固定観念に囚われない自由さが今も尚、料理に未知数の奥行を与え、私たちに感動の一皿を差し出してくれるのだろうか。
「調理の専門学校に通っていた当時はフランス、イタリアといった、西洋料理はまだ一般的ではなく、興味や憧れといった対象でした。でもその憧れこそが10 代の自分を強く突き動かしているすべてでした。もう、ただのスノッブな気分といって間違いないですね(笑)。卒業したら海外で料理修行をしたいという一心でアルバイトで150万円を貯め、それだけを握りしめ何かのつてがあるわけでもなく、もちろんたいした経験もないのにパリへ初めて渡りました」
わかる言葉はかろうじてアン・ドゥ・トロア、キャトルぐらい。そんな佐藤氏に料理を作らせてくれる店などなく、ひたすら店の掃除や野菜を洗う等の仕事が続いた。
「あの時は、精神面も随分鍛えられましたね(笑)。一人ぼっちで、たよりは自分の五感だけ。今まで見たことのない食材を目にして、触れて、匂いや味を五感で盗む。目の前にある物、起こる事、全てが学びに変わっていきました。無駄のない料理の手際もこの時、見て感じて体に染み込ませていきました。実はフォアグラを初めて食べたのも、19歳のこの時だったんですよ」と優しく笑いながら話してくれた。
料理はそれが生まれた国の文化や習慣を知ることが大事だと佐藤氏は言う。
いろいろな国や街の料理をもっと知りたいという、はやる気持ちがそうさせたのだろうか。8か月過ごしたパリを後にし、リヨンへ移った後も2か月程イタリアを放浪した。
「気まぐれにふらりと入った店の先々で、自分が思うイタリア料理がいかに狭い世界だったのかを思い知りました。素材の良さを出し切ったシンプルなあさりのパスタに、イタリアにいながら不思議と郷愁を覚えたのには、驚きだけでなくイタリアンに対する考え方が急速に大きく広がって行きましたね」
自分の成長を確かめるかのように佐藤氏は一旦帰国し、東京でフランス料理とイタリア料理の店で更に経験を積んだ後、再び、語学と料理の修行にフィレンツェ、ミラノを訪ねた。
それから帰国したのは22歳の時。
くしくも日本ではイタ飯、ティラミス等がいたる所でささやかれ、イタリアンブームに湧き上がっていた。
「ベリトッサ伏見店」。店の前には地下鉄と直結になっている吹き抜けのパティオがある。そこでは美しいライティングの中、シャンパンナイトが催されることも
カフェ&バールスペース。ブラックとホワイトのタイルがクールなモード感を程よく演出している
店内の奥には、大切な人と特別な時間を過ごすのにふさわしい落ち着いた空間も用意されている
佐藤氏が独立したのは25歳の時、自分の故郷である岐阜にイタリアンの店をオープンさせた。
16年間、岐阜にどっしりと根をおろし愛され続けてきたその店は、佐藤氏が40歳を過ぎたのを機に更なる高みへと走り続けるため、店を閉め新たな挑戦として名古屋に「ベリトッサ」栄店をオープンさせた。
流行りすたりの激しい世界で16年間、支持され続けることがどれだけ難しいことか。まわりを少し見渡すだけでもそれはすぐに分かる。
「確かに日本はトレンドが早いよね。でも、流行を追う料理ではなく、お客様がまた食べたいと想い出してくれる料理とは何なのかをいつも考え追い求めてきました。それは今もこれからも変わりません。お客様には常に新しい料理を楽しんで欲しいから旬の素材を走りから名残まで、北から南へ、追いかけ新しい一皿としてお出ししています」
旬の素材への強いこだわりはベリトッサのブログからも十分に感じ取ることができる。
これから「白トリュフ」を先取りするためにイタリアへ発つという佐藤氏。日本で今年一番最初に「白トリュフ」を楽しめるのは名古屋のベリトッサなのかもしれない。パスタと一緒に・・・いや、どんなスタイルで「白トリュフ」が登場するのか。今から楽しみでしかたない。
「自分の創作を単に披露するのではなく、あくまでもお客様を楽しませ、感動させる。そして、癒されるひと時を過ごしていただきたい。そんなおもてなしのすべてがベリトッサのコンセプトなんです」
そして、「楽しませる」というベリトッサのコンセプトにあるように料理だけでなくライフスタイルそのものも楽しく変化させてくれる店がベリトッサの2号店として昨年、伏見にオープンした。
名古屋のランドマークであり、ビジネスシーンでも注目されている名古屋インターシティーの地下1Fにその店はある。
「地下鉄から直結のビルなので、多忙なビジネスマンが一人、気分転換にエスプレッソで一息ついたり・・・仕事を終え、モードを切り替えるために軽くバールに立ち寄ったり、時には大切なゲストと生のボサノバ演奏とシャンパン片手にイタリアンを楽しむというような。いろいろな目的に合わせて当店を使って欲しいんです」
ベリトッサは流行りではなく、楽しく生きることを世の中に先駆けてアプローチしてくれる。だからずっと色褪せることがない。粋に人生を楽しむ大人の普段使いから、特別な日にも使えるとても貴重な店なのだ。
そんなベリトッサはこれからも3号店、4号店と進化、展開していくのだろうか?
「3年以内には東京に新しいベリトッサを展開していく予定です。ベリトッサのスピリッツを受継いでもらいながらも若いスタッフの個性が共鳴し合い、1号店 2号店にはないベリトッサを創って欲しいのです。若い人にはとても期待しています。一人で何かをしようとするのではなく、それぞれの個性を認め引き合い、磨き合ってスタッフみんなで大輪を咲かせる。これが当社の考え方です」
この業界に憧れながらも、挫折していく若者も少なくない。どうしたら佐藤氏のように憧れを仕事にしながら、今も尚、夢を追いかけられるのかを尋ねてみた。
「がんばれる秘訣は、お客様とのコミュニケーションもさることながら、実はスタッフ同士のコミュニケーションをいかに努力するかということ。それが上手くいっていれば、多少辛いことがあっても人はがんばれるものなんです。続けられないのは、人に負けてしまうことのほうが大きいんです。料理のセンスとかそんなのは1%も関係ないんじゃないのかな。仲間を思いやったり、してあげることの喜びを知っていることが、お客様を感動させるおもてなしのすべてにつながっていくと思いますよ。後はどんな困難にあっても、自分を支えてくれるプライドを持つことです」
もし、自分は経験も才能もないと思っているのなら、まずはいつも厨房を徹底的に綺麗にする。無駄のない美しい動きで仕事をする。そいった所に細かな美意識を持てるようになればプライドはおのずと育っていくのだと、最後に佐藤氏はアドバイスを付け加えてくれた。
佐藤 栄樹氏(45才)
ベリトッサ オーナーシェフ・代表取締役
調理師の専門学校を卒業後、ヨーロッパへ料理修業の旅に出る。帰国後もイタリア店、フランス店等で経験を重ねながらも、その間何度かヨーロッパに渡り数々の店舗で修業を積む。25歳、独立。岐阜にイタリアンの店をオープンさせる。さらなる夢を追い求め名古屋へ進出。2007年に1号店としてベリトッサ栄店をオープン。岐阜県出身。
| 社名 | 株式会社ビリクス |
|---|---|
| 住所 | 名古屋市栄3-25-34 |
| 設立 | 2007年 |
| 資本金 | 1000万円 |
| 事業内容 | レストラン・ウエディングバンケットの経営、運営、企画 |
| ■BELLITOSSA(ベリトッサ)栄本店 |
|---|
| 名古屋市栄3-25-34 電話/052-263-1661 営業時間/11:30~23:00(22:00 LO) アクセス/名城線「矢場町」駅4番出口下車徒歩5分 URL/http://www.bellitossa.jp/sakae/ |
| ■BELLITOSSA il Santo Bevitore伏見店 |
| 名古屋市中区錦1-11-11 名古屋インターシティーB1 電話/052-231-1775 営業時間/11:00~23:30(23:00 LO) アクセス/東山線・鶴舞線「伏見」駅10番出口直結徒歩1分 URL/http://www.bellitossa.jp/ |
2009年11月掲載
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