優しい月の光に誘われて
自然と人々が集まって来てしまう。

株式会社SORA
代表取締役 石川 雅司氏(43才)

混沌とした不況にも関わらず繁盛する店があれば、景気が良くても消えていく店もある。どんな時代にも愛される店とはいったいどういう店なのか。そして、時代に求められる人材像とは?石川社長のインタビューを通して何かヒントが見えてきそうだ。

一生懸命、今を生きること全てが
夢を掴むために全て必要だった


月あかり 泉店/うっかり長居をしてしまいそうな空間。気心知れた仲間と語らいながらお酒も料理もついついすすむ 月あかり 泉店/うっかり長居をしてしまいそうな空間。気心知れた仲間と語らいながらお酒も料理もついついすすむ

月あかり 泉店/うっかり長居をしてしまいそうな空間。気心知れた仲間と語らいながらお酒も料理もついついすすむ

10年前、会社を立ち上げる時まで自分が飲食店の社長になるなんて思ってもみなかったと石川社長はいう。

この業界に飛び込んだのは15歳の時。両親が教育者という家庭環境の中に、おさまりきれなかったのか・・・勢いのまま石川社長は家を飛び出した。この時、本人は気づいていないが最初に夢の扉を押した瞬間だ。

高校中退。
何もない。選択肢はない。

手っ取り早く、住み込みで食いっぱぐれがなければいい。それだけを思って、和食の店で働くことにした。

「家を飛び出す勇気はあっても、しばらくはホームシックになっちゃってね」とその頃の自分を少し照れながら石川社長は笑う。

スポーツは特にしていないというが、がっちりとした体形と経験を積みあげてきた経営者の風貌からは、そんな少年時代を想像するのは難しい。

家を出てからは、和から始まってイタリアン、洋食、そば・・・興味のあるものはすべて経験したいと、料理人の道をひたすら歩んだ。

そして、他の料理人と少しだけ違ったのは昼間は料理人として働きながら、夜は夜で全く異なる仕事をアルバイトで猛烈にするようになっていった。

「深夜のトラックターミナル、土木現場、ペンキ塗りにクラブディスコ・・・どうだろう軽く30種類以上の仕事をしたんじゃないのかな」

お金のためにいやいや働く人はいるが、それはお金を稼ぎたいとか、そういうことではない。いろいろな業界にはいろいろな人がいて、そんな人達と一緒に仕事をするのがおもしろくてしかたなかったという。

いきなり社会に出た少年には、世の中がそのまま生きた学校だったのかもしれない。

石川社長は、この時「人」を学んだと語る。

「例えば、深夜のトラックの運転手というと口数が少なくて、どこかぶっきら棒な人が多かったりするけれど・・・トラックを降りる時にドアは優しく閉めろよっと、小声でいったりね(笑)。人にはいろいろ「温度」があるんです。育った環境も異なれば、大切にしていることも人それぞれなんですよ」

一人ひとりの思いを大切にしながら一生懸命仕事をする石川社長は、当然仕事をする先々で、喜ばれた。うちの社員にならないかと真剣に誘われることも多かった。

石川社長は決して何者かになろうとしていたのではないだろう。しかし、様々な人がやって来る飲食店で一人ひとりを思い至りながら心を尽くすというサービス力の素地を経験で身に付け磨かれることになったのだ。

20代も後半にさしかかった頃だろうか。真剣に生きることに没頭し、駆け抜ける石川社長を遠くから見ていた人がいた。

雑貨業を営む会社が飲食事業部を立ち上げるのに石川社長の飲食人としてのキャリアと、人に喜ばれるサービス力を活かして手伝って欲しいと声を掛けてきたのだ。

ここから、飲食人としてだけでなく店舗マネジメントを学び、店を立ち上げ、人をマネジメントし、繁盛させるというキャリアが石川社長に加わっていった。

今を一生懸命生きることで、夢につながる道が目の前に開かれていき、サポートしたいという人や、慕ってくる人が自ずと集まって来る石川社長の生き方は、今度は自分が経営者となり店を作る力と自信をつけていった。

そして、35歳の時、独立。東区泉に「月あかり」をオープンさせた。


時代に波打たない店のキーワードは
人と自然の優しさにある


月うさぎ 名駅店/産地直送の素材を一番おいしく食べられる料理でふるまってくれる。人気の海鮮串焼きもその一つ。場所柄、ウエディングの二次会にもよく利用されるとあって大人数も収容可能な宴会スペースもある。 月うさぎ 名駅店/産地直送の素材を一番おいしく食べられる料理でふるまってくれる。人気の海鮮串焼きもその一つ。場所柄、ウエディングの二次会にもよく利用されるとあって大人数も収容可能な宴会スペースもある。

月うさぎ 名駅店/産地直送の素材を一番おいしく食べられる料理でふるまってくれる。人気の海鮮串焼きもその一つ。場所柄、ウエディングの二次会にもよく利用されるとあって大人数も収容可能な宴会スペースもある。

月うさぎ 伏見店/オフィス街にある同店では寿司居酒屋として、産地直送の素材を贅沢に使った寿司をハイパフォーマンスで食することができる 月うさぎ 伏見店/オフィス街にある同店では寿司居酒屋として、産地直送の素材を贅沢に使った寿司をハイパフォーマンスで食することができる

月うさぎ 伏見店/オフィス街にある同店では寿司居酒屋として、産地直送の素材を贅沢に使った寿司をハイパフォーマンスで食することができる

洋食+珈琲 オニオン/50年以上の歴史を持つパブリックな場所「愛知県産業労働センター」地下1階にあるという。マーケットをしっかり捉えた料理とサービスが人気を集めている

洋食+珈琲 オニオン/50年以上の歴史を持つパブリックな場所「愛知県産業労働センター」地下1階にあるという。マーケットをしっかり捉えた料理とサービスが人気を集めている

同社には「月あかり」をはじめ、「月のほとり」「月うさぎ」の居酒屋店と「オニオン」という洋食と珈琲が楽しめる店がある。

地下へ階段を降りて行くと石畳が店内へと誘ってくれる「月うさぎ 名駅店」をふらりとのぞいてみた。ちょっとした人数でもゆったりと収まる個室からは、完全にくつろいでいる笑い声が終始こぼれていた。おそらく何度か来たことのある常連さんだろう。ほろ酔い気分には、そんなにぎやかな笑い声も心地よく聞こえてくる。ほんのりとした明かりのせいだけでなく、店内のサービスと空気は柔らかく不思議とくつろげる。カウンター越しの調理人のつかず離れず絶妙な空気と間で求める料理を出してくれるのにもすっかり上機嫌になってしまう。

長引く不況にもれず飲食ビジネスも決して楽ではないはず。ましてや飽和感のある居酒屋業態でありながら、同社がこうして長年、浮足立つこともなくどっしりと根を張っていられるのかが、少しずつ見えてきた。

「和食以外に、イタリアン、洋食・・・いろいろやって来たから、業態は何でもよかったんですよ。でも、一部の人達じゃなくて広く大衆に愛され愛す商売がいいなと思って、居酒屋をやろうと決めました」

店の名前に「月」がついているのは、お客様を優しい月の光で照らし、心を癒し満たしたいという「Shall I heal a heart」のコンセプトが込められている。各店舗は、立地やマーケットによって少しづつ展開が異なるが、料理はコンセプトどおり、優しい自然素材と味付けに一貫してこだわっている。

「体に優しい味付けや自然素材にこだわった料理は、強烈なインパクトを放つものではないんですよね。でも、今の時代、お客様の心の声に耳を傾けると、たまには流行りの料理もいいかもしれないけれど、ほっとする料理だったり、その時に流れるなごんだ空気・・・そして、心癒される店員のもてなしやなにげない会話が、自然の万有引力じゃないけれど、またこの店に来たいと無意識に引き寄せる引力になるんだと思うんです」

おしゃれなお店や料理だけで人を惹きつける店づくりは、今の時代、もう通用しないということなのだ。

では、こういう時代に同社が求める人材について尋ねてみた。

「新人であれば、最初は仕事は器用にできなくてもいいから、お客様に明るく挨拶ができて楽しく会話ができるというコミュニケーションが図れる人材ですね。その上で仕事の技術を身に付けていってもらえればと思っています。後は自主性でしょうか。誰も見ていない所でも地道に努力を続けられるとかね。ほら、桜の木だってそうでしょ。春の一瞬を見事に咲かせるためには、誰も見向きもしない季節にひそかにがんばって、準備をしているでしょ。いつもうまくいくとは限らないから、光があたる時もそうでない時も地道な努力を続けられる人材を求めています」

今、同社が一番直面している課題はやはり「人」のことだという。会社の思いを継承していける人材を育てることで、世の中に癒される居心地のいい場所を増やしていきたいという。来店してくれたお客様が元気になって帰ってもらえれば、世の中もきっと、今よりは確実に元気になっていくはずだ。

最近では、居酒屋業態とは全く異なる「洋食+珈琲 オニオン」をオープンさせている同社。家庭的な食材であるタマネギが、ほっとするおいしさを引き出し、優しい気分にしてくれるのは会社のコンセプトどおりだ。

「Shall I heal a heart」を一人でも多くの人に届けるためには業態の枠に捕らわれず新たな店を思案中だという。

「社会に貢献していくためにも、一つの目安として年商25億円規模の企業を目指したいですね」と語ってくれた。

どうやら夏頃には、また新しい業態の店が皆の前にお目見えしそうだ。


石川 雅司氏(43才)
株式会社SORA 代表取締役
PROFILE

石川 雅司氏(43才)
株式会社SORA 代表取締役

高校を中退後、料理人としての道を突き進む一方、あらゆる業界でアルバイトをしながら幅広い経験を積み、人脈を増やし、経営ノウハウを学ぶ。フリーで数々の新店の立ち上げをプロデュースする等の実績を経て35歳、株式会社SORAを立ち上げる。頻繁とはいかないが、海外でダイビングをするのも楽しみの一つという。好きなのは限りなく透明度の高いサイパンの海だとか。時折開かれるホームパーティーでは裏方で腕をふるうこともある良きパパ。愛知県名古屋市出身。


PROFILE
商号 株式会社SORA
設立 2000年
代表 代表取締役 石川 雅司
資本金 1000万円
本社 〒460-0011 愛知県名古屋中区大須1-34-47-505
TEL/052-231-3883
PROFILE
■創作酒房「月あかり」
名古屋市東区泉1-15-13
昼の部 11:30~14:00(月~金)
夜の部 17:30~24:00 年中無休
TEL 052-953-7778
■大人の居酒屋「月のほとり」
名古屋市中村区名駅5-2-8
昼の部 11:30~14:00(月~金)
夜の部 17:30~24:00 年中無休
TEL 052-581-7774
■炭火海鮮「月うさぎ 名駅店」
名古屋市中村区名駅3-13-26
昼の部 11:30~14:00(月~金)
夜の部 17:30~24:00(金・土25:00) 年中無休
TEL 052-581-7770
■寿司居酒屋「月うさぎ 伏見店」
名古屋中区栄2-1-16
昼の部 11:30~14:00(月~金)
夜の部 17:30~24:00 祭日定休
TEL 052-221-8333
■産地美食「月あかり 名駅店」
名古屋市西区名駅3-11-2
昼の部
・11:30~14:00(月~金)
・11:30~15:00(土・日・祝)
夜の部
17:00~24:00(金・土・祝前25:00)
TEL 052-551-7778
■洋食+珈琲「オニオン」
名古屋市中村区名駅4-4-38
8:00~22:00年中無休
TEL 052-563-0020

2010年2月掲載


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