「大名古屋食堂ア・ロテル」のオーナーシェフである松本氏。ストレートに投げかけてくるその店の名前からも、松本シェフの生まれ故郷である名古屋への深い愛情を感じずにはいられない。名古屋を取り巻く伝統的な食材や料理技法を取り入れた松本氏の料理は「現代化された郷土料理、名古屋流創作料理」とも言われている。
三河湾の魚と地元の有機野菜を使った料理。カマスと車エビのソテーと同じくらい野菜が主役の料理
松坂屋の「デパートメントストア100周年記念 大謝恩祭」で大名古屋食堂が期間限定で地下1Fにオープンされた。赤味噌をベースにしたソースが特徴の中京オムライスも同店ならでは
気づいたら料理に使う食材が95%地元産だったという。松本シェフはフレンチをベースに、今風に横文字で言うと「ORGANIC・LOCALFOOD」の創作料理を作りだしている。オーガニックと言うと、ともするとファッション的に聞こえたり、まだまだ一部の人達だけが手にする印象を受けるが、松本シェフが提唱する料理はそんな表層的なものではない。料理に対する真摯な姿勢は、まさに自然に育った獲れたての野菜のように純朴で、泥臭いくらいに情熱的で遥か遠くを見つめていた。
松本氏が料理と出会ったきっかけは、高校時代、自宅近くでアルバイトをしていたレストランだった。
「30年位前ですから、まだカフェなんていうのもない時代でした。それでも結構おしゃれでしっかりとした料理を出す店でした。工業高校だったんですが、機械の部品を一つひとつ緻密に組み付けていくモノ作り精神みたいなものを料理にも感じていたように思います。はまっていきましたね」
松本氏の友達の多くは地域がら大手の自動車関連企業に就職していった。それを横目にしながら、松本氏はアルバイト先だったその店に就職することを決めた。店を持ちたいとか、社長になりたいとか、そんなことではなくただ好きなことを追求したいという極めて純粋な18歳の決断だった。
多業態を展開するその店ではフレンチ、イタリアン、和食と幅広く貪欲に学んでいった。
給料のほとんどが料理に関する本や食べ歩きで消えていったという。もちろん、同じくらいバイクや車をいじったり、60年代ロックやサーフィンにも夢中になる若者だった。
好きなことにはとことんのめり込んでいくタイプなのかもしれない。
松本氏にとって20代はいろいろな人と出会い、様々な経験を柔らかな感受性で吸収していった時代だった。
「80年代、好景気の流れにもれず・・・ドーバー海峡の舌平目だのオマールだの世界中のグルメな食材を取り寄せては自分の目指すフレンチを追い求めていました。でも、何かが釈然としないんですよね。はるばる遠くからやって来た食材は、まず解凍して臭みを取るために牛乳を使ったりスパイスを使ったりあらゆる技術を駆使して素材をおいしくすることに手をかけなければいけません。これが獲れたての食材なら、料理の発想は全く違ってきます。余分なスパイスももちろんいりません。その素材をまずくしない、活かすための料理技術を考えます。自分が目指す料理は前者ではないかもしれない。そう感じ始めていた頃、偶然にも宮づかいの料理や郷土料理の粋を知りそして、それを教えてくださる先輩の方々に出会いました」
この時、松本氏は自分の料理と同時に人生のスタンスが決まった。
名古屋にないものではなく、今この土地にある素材を活かし、この土地ならではの料理を慈しんて作ろうと。そして、これは後に大名古屋食堂のコンセプトとなる。
「本来、料理とは『レシピ』というものはなく、その季節、その場所に何があり、どうすればそれをおいしく、楽しく、安全に食べることができるだろうか、という先人の知恵と経験の集積だと考えます。そうして受け継いだものに、新たな知恵と経験を加えることによって「理」(ことわり)を「料」(はかる)、すなわち『料理』が行われる」、と松本氏は料理のフィロソフィーを説いている。
次世代の子供達にも受け継がれ、決してすたれたり、ブームで終わらないのが料理の真理なのだ。
スタンスが決まり、改めて世の中を見渡した時、今まで見過ごしていた郷土の素材があまりにも素晴らしいことに松本氏は気づきその豊富さに驚かされた。
確かに名古屋は伊勢湾、三河湾にほど近く、北には木曾山川、中腹には濃尾平野、そして奥三河山岳を望むという最高に恵まれたロケーションにある。
愛知の伝統野菜を調べ、自然農法の農家を訪ね、時にはみそ蔵へ足を運び、碧南の有機みりんに感動した。三河赤鶏に、絹姫サーモン、酪農王国愛知の田原ミルク・・・あげたらきりがないほどの食材を松本氏自らが、探し奔走する日々が始まった。
大名古屋食堂ア・ロテル
アールヌーボー調の調度品や内装が19世紀パリのエスプリを感じさせる落ち着いた店内。約80席のゆったりとした空間と10名程の個室空間がありウエディングの二次会会場としても利用されてる
CREAM
姉妹店の同店でも大名古屋食堂ア・ロテル同様フォワグラの八丁味噌漬け、愛知県産サーモン、名古屋コーチンのスモークなど名古屋の一級素材を十二分に引き出した料理が楽しめる
転機は29歳の時、訪れた。
すでに松本氏はシェフとしてだけでなく、店長として店舗の経営も任されていた。
「新店の物件を探していた時でした。名古屋城のほとりにある物件に、どうしようもなく惹かれてしまったんです(笑)。会社はその時、交通至便な物件を求めていたのでNGだったんですが、何故だかその物件を自分は最後まであきらることができなかったんです。だったら自分で店をやればいいんだと思い、後先考えず独立を決意しました」
買ったばかりの愛車を売り、無けなしの貯金を叩いても足りない分は、以前から良くしてくれていた内装業者さんに分割をお願いしたり、ありがたいことに、高校を卒業してからずっと大切に育ててもらった社長からも資金をバックアップしてもらい、思い焦がれていた名古屋城のほとりに1992年、「大名古屋食堂」は堂々、オープンした。
「本当にいろいろな人に応援してもらいました。10年間、脇目も振らず一生懸命にやってきてよかったなぁと思いましたね」
以来18年の年月を経て2年前、大名古屋食堂はもっと多くの人に心おきなくお酒と食事を楽しんでもらうために名古屋城のほとりから、車でなくても立ち寄れる、伏見駅からも便利なホテル内へと居を移した。そして、店名はホテルの中にあるという意味が加わり「大名古屋食堂ア・ロテル」となった
「目標は、独立して店を持つことだという若者がいるけれど、独立は目指すものではなく独立をして、自分は何がしたいのかがなければ流行りもののように店は簡単に風化したり、跡形もなく時代の波に飲み込まれてしまいます。飲食業界は他の業界に比べると参入障壁が低い分、誰にでもチャンスがあるし、少しがんばれば地域一番店にだって、果ては海外進出だって夢じゃない。でも、自分は何を世の中に問いていきたいのかの芯が無ければ、長く続けるのはとても難しい業界だと思います」
独立はあくまでもスタートに過ぎない。
最近、松本氏は今まで以上に地産地消を根付かせ、その料理をより多くの人に食してもらうためにも自然農法にこだわった生産者の人達と関わり合いを深め、地産地消がビジネスモデルとしてしっかり成り立つための仕組やネットワーク作りに力を注いでいる。
「いい食材を買い続け、生産者の人達を支えていくためにもクリエイティブしていきたいんです。その一つとして廃村の土地を自然農法の人達と一緒になって買取り、完全有機化の田畑を作り、修農生が野菜を育てるといった試みもしています。郷土の大切なものを伝え残していくには自分一人ではもちろん、一代では到底無理なんです」
飲食業界は今、デフレ戦線真っ只中の戦国時代である。
そんな中、何かと競争しようなんてことは松本氏は思っていない。
「地産地消で環境保護だとか、エコだとかを声高だかに言いたいんじゃないんです。自分達が暮らしている気候や風土にあった食文化が一番おいしいのは当たり前で理にかなったことなんです。輸送距離が短くなればCO2が減るのも当然のこと。本物の豊さに気付くことで、皆が本物の豊かさを得て、当店も一緒に成長していけたらいい。そういう思いや理念に共感して自然と集まって来てくれた社員が当社のDNAを受継いで店を発展させ、郷土の食文化を脈々と受継ぐ一翼になれれば。そして、愛知・名古屋だけでなく、全国が郷土の食文化を見直せば食料自給率も上がります。いつのまにか幸せを感じにくいと言われる国になってしまった日本も、きっと今よりは幸せを感じやすい国になるはずです」
開府400年で増々、盛り上がりを見せている名古屋。
「名古屋城で現代版『名古屋の郷土料理』が食べられるなんていうイベントもおもしろくないですか」、と笑いながら話してくれた。料理を通してまだまだ様々なプロジェクトやイベントを予定しているという。
競争ではなく、自然に逆らわずに生きる。そして、皆で郷土を愛し、盛り上がり、豊かさを築いていく。それが松本氏のやり方だ。
松本 善隆氏(46才)
株式会社エール・ダルジャン 代表取締役 社長
アルバイトで料理の世界に出会う。その魅力に引き寄せられ高校卒業後、そのアルバイト先へ社員として入社。10年間修業を積んだ後に1992年、現代版郷土料理をテーマに名古屋城のほとりに「大名古屋食堂」をオープン。2008年に現住所へ移転。タップ・プロジェクト「TAP NAGOYA」や名古屋市上下水道局「名水プロジェクト」のご意見番としても参加するなど、料理を通して愛知・名古屋の良さを発信し、地域に根ざした活動を積極的に行っている。愛知県名古屋市出身。
| 商号 | 株式会社エール・ダルジャン |
|---|---|
| 設立 | 1996年 |
| 代表 | 代表取締役 社長 松本善隆 |
| 資本金 | 300万円 |
| 事業内容 | ・飲食店経営 ・厨房設計、内装デザイン ・家庭用、業務用食品と加工品の生産及び販売 ・メニュー、レシピ作成代行 ・料理教室 |
| 本社 | 〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦3-2-1 信愛ビル1F TEL 052-222-0758 |
| ■「大名古屋食堂ア・ロテル」 |
|---|
| 〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦2-20-15 シルクトゥリーホテル2F TEL/FAX 052-222-0758 名古屋市営地下鉄東山線伏見駅 2番出口 徒歩5分 名古屋市営地下鉄舞鶴線伏見駅 12番出口 徒歩6分 名古屋市営地下鉄東山線栄駅 8番出口 徒歩5分 名古屋市営地下鉄名城線栄駅 8番出口 徒歩5分 ライチタイム 11:30~14:00(オーダーストップ13:00) ディナータイム 17:30~24:00(オーダーストップ23:00) 定休日 無休 総席数 72席(個室16席含む) 貸切最大人数 ご着席80人 ご立食100人 |
| ■CREAM |
| 〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦3-2-1 信愛ビル1F TEL/FAX 052-963-5511 地下鉄桜通線久屋大通駅 4番出口 徒歩2分 地下鉄鶴舞線丸の内駅 徒歩5分 名鉄瀬戸線栄町駅 徒歩10分 17:30~03:00 定休日 無休 総席数 76席 貸切最大人数 ご着席80人 ご立食100人 |
2010年4月掲載
| ←前の記事へ | 一覧へ戻る | 次の記事へ→ |






































